大学生が、コーヒーを哲学する。

LOCAセラミックフィルターでインターンしている大学生が、都内のコーヒーショップを巡り、コーヒーの魅力を発信します。

墨田の皆さんの「社交場」に すみだ珈琲 廣田英朗氏

こんにちは!2020年に入って、寒さが一層厳しくなったように思いますが、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今年はオリンピック・パラリンピックが開催されますね!

さて、2020年初回のブログは、錦糸町駅から徒歩10分のすみだ珈琲さんに伺いました。電車を降りると、スカイツリーが目の前に建っていて、まさに「江戸」らしい力強さを感じます。

江戸切子で楽しむ、おしゃれなコーヒー

江戸といえば...

皆さんは、江戸切子をご存知ですか。

そうです。江戸切子は、江戸時代から続くガラス細工で、東京都の伝統工芸品です。

しかし、江戸切子でコーヒーを飲んだことはありますか。

なんと、このすみだ珈琲では、自家焙煎したスペシャルティコーヒーを江戸切子カップで楽しめるんです!

この墨田でお店を開いたのは2010年。墨田区で開業を目指す際に、お父様とお兄様が携わっている地域の産業でもある江戸切子とコラボレーショできないかと考えていました。

f:id:LOCA:20200107154345j:plain

江戸切子のコーヒー。細かく刻まれた模様に触れてみると、職人さんの技術を感じます。

江戸切子に気軽に触れられる場所があまり無いと思っていました。それこそ、居酒屋さんだったら江戸切子を見ることはありますが、うちのコーヒーのように1杯500円で、というのは難しいんじゃないでしょうか」

もともと町人の文化であったといわれる江戸切子。コーヒーを味わいながら、江戸切子の職人さんの技術を楽しむことができます。

f:id:LOCA:20200107155525j:plain

急激な温度差に弱いガラスをコーヒーカップ用に改良して、すみだ珈琲オリジナルのコーヒーカップが生まれました。

墨田の皆さんの「社交場」に

お店は中も外も木目調で、どこかノスタルジックな雰囲気が漂っています。

「この墨田にひとりで住んでいらっしゃる方にとって、ほっと一息つけるような、憩いの場になれば良いと思います」

すみだ珈琲を始めたときは、様々な国や産地のコーヒーを紹介できるお店として考えていましたが、はじめてお店で隣同士になった方々が仲良く話したりするのをカウンター越しに見たり、人を繋げることで、地域の社交場としての重要性を実感したといいます。

f:id:LOCA:20200107161748j:plain

外装も特徴的です。
衝撃のエチオピア ミスティーバレー

前職も飲食業界で働いていた廣田氏。働いている中で、世の中にどのような食材が出回っているのか、どんどん興味が増してきたと言います。

「そんな中、今まで飲んだことがないような美味しいコーヒーに出会いました。世田谷区の堀口珈琲さんで飲んだ、エチオピアのミスティーバレーです」

堀口珈琲に通うようになった廣田氏は、美味しいコーヒーを紹介できる人になりたいと思うようになり、この墨田ですみだ珈琲をオープンしました。

「そういうこともあって、このお店を通して『こんなに美味しいコーヒーがあるんだ』というのをお客さんにも知ってもらいたいです」

すみだものづくりコラボレーション

「『社交場』としてのすみだ珈琲を大切にしながら、新しい商品の開発にも取り組んでいきたいですね」

墨田区は「すみだものづくりコラボレーション」というプロジェクトを推し進めているそうです。

世界に誇るすみだの技術を、区が仲介役となって、デザイナーさんと共に商品開発を行っています。たとえば、おしゃれなパッケージングがされたコーヒーバッグ(下)は、簡単にコーヒーを淹れることができ、5種類のコーヒーを飲み比べることができます。

f:id:LOCA:20200107163255j:plain

忙しい時でも、ティーバッグのようにコーヒーを淹れられるコーヒーバッグ。

さらに、ウィスキーを思わせるボトルを使用した「コーヒーソース」(!)といったものまで開発しました。

コーヒーソースは、ちょっとしたデザートにかけて使うもので、これを少しかけるだけでコーヒーの風味を楽しむことが出来るんです!筆者はケーキにこのコーヒーソースをかけていただきました。

f:id:LOCA:20200107163440j:plain

COFFEE LIQUID(右)とCOFFEE SAUCE(左)

こういった新しい商品開発も積極的にしていきたいと語る廣田氏。江戸切子という伝統を大切にしながら、地域に寄り添ったお店作りを目指しています。

すみだ珈琲のスタッフの皆さんがお待ちしています!

f:id:LOCA:20200107162709j:plain

今年もLOCAセラミックフィルターをよろしくお願いします!

sumidacoffee.jp

すみだ珈琲
http://sumidacoffee.jp/
〒130-0012 東京都墨田区太平4-7-11
TEL 03-5637-7783
営業時間 11:00-19:00
定休日 水曜日、第2・4火曜日

女性バリスタを世に送り出す LATTEST OMOTESANDO ESPRESSO BAR 宗広裕美氏

こんにちは!寒さが厳しくなり、ホットコーヒーが美味しい季節になりましたが、皆さんいかがお過ごしでしょうか。今回は表参道駅から徒歩5分のLATTEST OMOTESANDO ESPRESSO BARさんにお話を伺いました!

LATTESTさんのホームぺージには、「LATTESTは女性バリスタを世に送り出すというコンセプトのもと2012年2月、東京表参道にオープンしました」とあり、スタッフは皆さん女性です。確かに、他のコーヒーショップを見渡してみても、まだまだ女性バリスタはあまり見かけないような気がします。2018年から店長として活躍されている、宗広裕美氏に女性バリスタへの思いを伺いました。

***

クリスマスはまだ先なのに、大通りのイルミネーションは大はしゃぎだった。高級ブランドのマネキンたちが道行く観光客をじろじろと見ている。大通りの喧騒から逃げるように細い道に入っていくと、ゆったりとくつろいでいるようなお店が立ち並んでいる。初めてこの道を通った人は、「大人びた雰囲気だ」と言って身構えるだろう。でも、LATTESTの看板の前で襟を正す必要なんて無い。LATTESTは誰だってウェルカムだ。

「こんにちは!」と笑顔で迎えてくださった店長の宗広氏も、もともとはお客さんのひとりだった。

f:id:LOCA:20191213005914j:plain

LATTEST OMOTESANDO ESPRESSO & BAR 店長の宗広裕美氏


「会社で多くの男性に囲まれてお仕事をされている女性のお客さんが、LATTESTに来てちょっと一息つくのを見たり、女性のお客さんから『応援しています』と言われたりすると素直に嬉しいです」

LATTESTがオープンした2012年は、スペシャリティーコーヒーに代表されるコーヒーのサードウェーブが盛んになり始めた頃だった。その頃、周りを見回しても女性のバリスタはほとんどいなかったのだという。だから、お店に来る女性にとって憩いの場となり、また女性が安心して働ける場となる思いで、LATTESTはオープンした。

エスプレッソマシンのメンテナンスだったり、電気系統の扱いだったり、女性だけだとちょっと大変な時もあります(笑)」

LATTESTにいらっしゃる6人のバリスタは皆さん女性だ。スタイリッシュでシンプルな内装と、女性バリスタならではのお客さんとの距離感がマッチしている。

隠れ家のような雰囲気もあるが、様々なお客さんがお店にやって来る。半数は外国人のお客さんだし、朝とお昼過ぎ、夕方ではお店の表情もまったく異なるという。そして、まるで知り合いであるかのようにバリスタの皆さんがお客さんに話しかける。

f:id:LOCA:20191213010059j:plain


「私がまだ会社員だったとき、この"LATTEST"を飲んで大ファンになったんです」

宗広氏は「女性バリスタ」ということだけではなく、コーヒーの美味しさもとことん追求している。特に"LATTEST"は、LATTESTのシグネチャードリンクで、独創的なエスプレッソだ。

ショットグラスの中で、こだわりのスチームドミルクとエスプレッソが2層になっている。口の中にエスプレッソならではの力強い味が広がり、その冷たいミルクの柔らかい甘味がエスプレッソの味を包むのだ。

f:id:LOCA:20191213010123j:plain

"LATTEST"をおすすめのチョコレートクッキーと一緒にいただいた。

前回の記事でCOUNTERPART COFFEE GALLERYの渡氏が修行していたコーヒーショップである、神保町のGLITCH COFFEE&ROASTERSを紹介したが、コーヒーの知識を学ぶため、LATTESTもGLITCH COFFEEでシェアロースターをしていた。だが最近、自分たちの焙煎所を構え、引き続きコーヒーの美味しさを追求しているという。

「なので、これからはもっとドリップコーヒーの道を拓いていきたいですね。私たち自身ももっとドリップコーヒーの知識を増やしていきたいと思います」

店長としてLATTESTをこれからどのようなお店にしていきたいのか聞いた。

「店長として、女性スタッフが安心して長く働ける環境を作っていきたいと思っています」

「それと、どんなお客さんにも来ていただけるお店作りをしていきたいです。コーヒーの知識があまり無くても楽しんでいただけるお店にしたいですね。あと、ちょっと奥まったところにありますし、女性バリスタだけというのが逆にプレッシャーになっているかもしれません。思い切って飛び込んできてもらいたいです!」

lattest.jp

LATTEST OMOTESANDO ESPRESSO BAR
http://lattest.jp/
〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3-5-2
TEL 03-3478-6276 
営業時間 10:00-19:00

こだわりの浅煎りコーヒー COUNTERPART COFFEE GALLERY 渡累氏

こんにちは!いよいよ秋も深まってきました。西日に照らされた落ち葉をコーヒー片手に眺めています。

今回は西新宿五丁目駅から徒歩1分、都会の喧騒の中にたたずむ、COUNTERPART COFFEE GALLERYさんに、こだわりの浅煎りコーヒーについて伺いました。

f:id:LOCA:20191119172401j:plain

オーナーの渡累(わたりるい)氏


「COUNTERPARTには、兄弟とか相棒っていう意味があるんですよ」

もともと赤坂でシェフをしていた渡氏は、あるコーヒーがきっかけでバリスタの道を志したのだという。それは、神保町のGLITCH COFFEE&ROASTERSで飲んだ1杯である。

「素直に、ああ、おいしいって思いました。今まで知っていたコーヒーの常識を覆されれるような感覚でした」

それをきっかけに、料理人の道を目指すのか、バリスタの道を目指すのか悩み、最後にはGLITCH COFFEE&ROASTERSで3年間の修行を積むことになる。

「どうして、料理人ではなく、バリスタを選ばれたんですか」

「それは、お客さんとの距離です。シェフだとお客さんとお話しする機会が少ないと思います。でもバリスタはお客さんとの距離が近い。お客さんの帰り際に『コーヒーどうでしたか』とお話しできるのがいいなと思いました」

その後、独立してCOUNTERPART COFFEE GALLERYをオープンした。渡氏は自分の道を歩んだが、その原点はGLITCH COFFEE&ROASTERSにある。だからら、"COUNTERPART"なのだ。

創業の思いは、お店の空間に反映されている。白く塗られた壁面に様々なアート作品が飾られていて、空間に無駄がない。都会的に洗練されている。それでいて、店内にはジャズや60年代のロックが流れていて、特に1階はお客さんとバリスタの距離が近くなるように設計されている。目の前に見える、人通りの絶えない大きな交差点から浮き出るように、人の温かみを感じるのだ。

「お店の名前にある"GALLERY"はまさにアート作品のことで、月に1回変えています。お客さんにとって、アットホームでくつろげるような、言うならば『ジャージでも来れる』お店を目指しています」

f:id:LOCA:20191119161217j:plain


渡氏は、自分がGLITCH COFFEE&ROASTERSで味わった「あの経験」をCOUNTER PARTCOFFEE GALLERYでも味わってもらいたいのだと、熱い思いを語る。

「だからこそ、スペシャリティーコーヒーにこだわっています。それも、豆本来の味を引き出せるように浅煎りの豆に限定しています」

かつては、輸送技術が発達していなかったので、なかなか品質を保つことができなかった。しかし今、まるで必要以上に焦がしたような、深すぎるコーヒーは、本当に豆の味を伝えているのだろうか。コーヒーはただ熱くて、ビターで、目が覚めればよいのだろうか。コーヒーの味はほとんど豆で決まってしまうのだ。

「では、抽出のときにこだわっていることはありますか」

「産地の個性を引き出せるように努力しています。なので、ブレンドでお出しすることはありません。苦味や雑味、渋味をできるだけ取り除いて、産地の特徴が手に取るように分かるような、クリアでフルーティーなコーヒーを目指しています」

f:id:LOCA:20191119161252j:plain

エチオピアの浅煎りをいただきました。果実のようにフルーティーで、見た目もクリアでした。

もうひとつ、スペシャリティーコーヒーにこだわる理由がある。それは、主観的においしいコーヒーではなく、客観的においしい、世界基準のコーヒーだからだ。

「西新宿とい場所柄もあって、平日は多くの会社員の方に来ていただいています。でも、近くのアパホテルからいらっしゃる海外のお客さんの方がずっと多いです」

スペシャリティーコーヒーは、SCAA(Speciality Coffee Association of America)が認定した、Qグレーダーと呼ばれるプロ中のプロによって評価された豆だ。

自分のものさしで満足するのではなく、常に世界基準のコーヒーを追い求めている。だからこそ、世界中から訪れたお客さんに支持してもらえるのだ。

f:id:LOCA:20191119161736j:plain

LOCAを使って抽出していただきました!

2016年にオープンしたCOUNTERPART COFFEE GALLERYは今年で4年目になる。今後は出張バリスタやオフィスコーヒーなど、さらに活躍の場を広げていきたいと渡氏は意気込んでいる。

counterpartcoffeegallery.com

COUNTERPART COFFEE GALLERY
http://counterpartcoffeegallery.com/
〒151-0071 東京都渋谷区本町3-12-16
TEL 03-3378-0577
営業時間 平日7:30-21:00 休日8:30-20:00

日本のコーヒー文化の原点にタイムスリップ 名曲喫茶ライオン

10月に入って少し涼しくなってきましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。夏休みが終わって、秋学期が始まった私は、毎朝コーヒーなしではやっていけない、という思いです。

今回は渋谷駅から徒歩10分、道玄坂をのぼったところにある、名曲喫茶ライオンさんにお邪魔しました。

 

今までこのブログでは、美味しいコーヒーとは何か、コーヒーショップのこだわりとは何か、ということを都内のバリスタさんに訊いて回りました。今回は雰囲気をガラッと変えて、喫茶店の歴史、コーヒーの歴史に目を向けてみたいと思います。

 

というのも、この名曲喫茶ライオンさんは昭和元年に開業して、途中戦争の影響を受けながらも、当時のコーヒーの味や西欧的な外装・内装を守り続けてきました。初代店長の山寺弥之助氏の孫である山寺直弥氏にお話を伺いました。

f:id:LOCA:20191008134235j:plain

店内は薄暗くなっていて、リラックスできるようになっている。座席はほとんど全て、奥のレコードの方を向いている。

 
「いや、特に『コンセプト』なんて無いですよ。昔からあるものを何とか続けてきただけです。戦争で休業を余儀なく迫られたこともありました」と気さくに話すのは、山寺さん。

 

先々代はもともと福島県会津若松の酒造の家で生まれ育ったが、東京で商いをしたくて、東横線の今はなき駅の近くにかき氷屋さんを始めた。それがうまく行ったのをきっかけに、当時ヨーロッパで流行り出したコーヒーに目をつけ、「ライオン」を始めたのだという。もちろん、日本では誰もコーヒーなんて飲んでいなかった。

 

「喫茶店業というのが存在しなかったんです。なので、パン屋さんとしてお店を始めました」

 

先々代は身内をヨーロッパに行かせて、コーヒーや喫茶店について学んだのだという。さらに、東大の学生がよく来ていたこともあって、文化色の強い喫茶店になった。店内の照明は落ち着いていて、クラシック音楽が流れ続けている。今では何千もの所蔵があり、お客さんからのリクエストも受け付けている。

 

「もともと歌謡を流していたそうですが、先々代が気に入って、クラシックを流し始めました」

 

f:id:LOCA:20191008134825j:plain


内装・外装だけではなく、座席やテーブルまで歴史を感じさせるものになっている。そして、コーヒーにいたっては、今では珍しいネルドリップ(紙ではなく、布で抽出すること)でコーヒーを淹れている。ホームページには、「ライオンのコーヒーの味は、ロンドンにあるベーカリー直伝である」と書かれているが、本当に重厚感があるコーヒーだった。調合方法もドリップ方式も当時のままで続けているのだという。

www.ucc.co.jp

 

なぜ今回、名曲喫茶ライオンを取り上げたのか。それは、コーヒーのサードウェーブであるスペシャリティーコーヒーの文化が日本の喫茶店文化に由来しているところがあるからだ。ファーストウェーブは大量生産と大量消費の時代で、セカンドウェーブはスターバックスを始めとするブランドコーヒーの時代と言われているが、本当にそうなのだろうか。名曲喫茶ライオンが開業したのは、コーヒーのファーストウェーブと言われる頃だが、お店の雰囲気づくりやコーヒーに対するこだわりは、大量生産と大量消費というよりも、現代のコーヒーショップに通じるところがある。

www.georgia.jp

 

日本においてまだコーヒーが目新しい頃から見られた、喫茶店のオーナーのドリップ文化は、その後、スターバックスの時代を迎えても脈々と生き続けている。新しい潮流に影響されることなく、自分のスタイルを貫く。それが、名曲喫茶ライオンが今日も続いている理由かもしれない。

 

さて、名曲喫茶ライオンは戦争でお店が焼失し、休業を余儀なくされた。その後、奥多摩から木材を仕入れたり、闇市で砂糖を手に入れたりした頃もあったのだという。今日、渋谷にあるお店は終戦後からあるもので、建物もだいぶ古くなっている。それでも、多くのお客さんに愛されている。

 

「長く続けていく秘訣なんてないですよ。このお店もいつまで続けるかとかは全く考えていませんが、できる限り、このお店の雰囲気とコーヒーの味を保ちながら続けていきたいです」

f:id:LOCA:20191008141102j:plain


名曲喫茶ライオン
http://lion.main.jp/info/infomation.htm
〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-19-13
TEL 03-3461-6858
営業時間 11:00-22:30
年中無休(正月・盆休み有り)

 

日本茶とコーヒーの斬新な組み合わせ Satén japanese tea 藤岡響氏

暑さも峠を通り越し、だんだん涼しくなってきました。コーヒー党の皆さんにとっては、ホットで飲むかアイスで飲むか悩むこの季節。皆さん、いかがお過ごしでしょうか。

 

英文学を学んでいる大学3年の私は、この秋から卒業論文に向けた準備に取り掛かります。しかし、論文で期待されるような、斬新なアイデアを出すにはどうしたらよいか、頭を悩ませています。それは、コーヒー業界でも同じだと思います。“From seed to cup(豆からカップまで)”にあらわされる「サードウェーブ」の到来によって、多くのコーヒーショップで生産から品質管理まで徹底された、スペシャリティーコーヒーが提供されるようになりました。美味しいコーヒーがあふれる中で、差別化を図るのはとても難しい。そんな中、JR中央線西荻窪駅から徒歩5分のSatén japanese teaでは、“Leaf to Relief(茶葉から一服へ)”を掲げ、日本茶とコーヒーを組み合わせた、ユニークなカフェづくりをしています。

f:id:LOCA:20190907024259j:plain


「そうです、“Leaf to Relief”はコーヒーの“From seed to cup”から取りました。コーヒーと日本茶は似ているところがたくさんあります。」柔らかな笑顔でお客さんを迎えながら、そう語るのは、藤岡響氏(写真右)。BLUE BOTTLE COFFEE清澄白河の立ち上げに携わり、トレーナーをされていた、腕利きのバリスタだ。バリスタ歴は14年になるという。

 

「コーヒーだけではない。日本茶だけではない。そのふたつを組み合わせることによって、メニューの幅が広がります。それだけ、お客さんの客層も厚いと思います」

 

昼は日本茶を飲んで、夜はコーヒーを飲む。そんなお客さんもいるのだという。

 

写真左の小山和裕氏は日本茶の道を極める茶リスタで、藤岡氏とともに、日本茶をメインとしたカフェを立ち上げた。それが、Satén japanese teaだ。コーヒーと日本茶の組み合わせ。コーヒーと日本茶が、それぞれにどのような影響を及ぼしているのだろうか。おすすめの抹茶ラテをいただきながら、藤岡氏に話を伺った。

 

f:id:LOCA:20190907024505j:plain

 

「最初に思いつくのは、スケール(計量器)とケトルです。どちらもコーヒー用のものを使っていますが、日本茶を淹れる際にも使っています。コーヒー用のものを使うことによって、より正確に分量を量れるようになりました」

 

抹茶を点てている藤岡氏の目がスケールの目盛りに向かっている。藤岡氏が慣れた手つきで茶筅を動かしているのを見ると、茶室にいるのかカフェにいるのか分からなくなる。

 

f:id:LOCA:20190907024609j:plain

 

器具だけではない。伝統的な日本茶のお店なら和菓子を出すだろうが、Satén japanese teaではコーヒーにも合うような、あんバタートーストやモナカを提供している。その日は、クリームチーズを練り込んで作られた、洋風のスナックスコーンをいただいた。京都で作られたものだという。

 

なぜ、Satén japanese teaは日本茶とコーヒーの組み合わせにこだわるのか。

 

日本茶というと高尚なイメージがあって、敷居が高いように思われがちです。でも、私たちは日本茶とコーヒーという組み合わせで、もっと色々な方に、もっと気軽に楽しんでいただきたいと思っています」

 

その思いは、Satén japanese teaの内装にもあらわれている。レトロな印象の内装には、和を意識してか、手すき和紙も織り込まれていて、日本茶にふさわしい涼しげな雰囲気を醸し出している。しかし、薄緑色の塗装や丸みを帯びた照明は、北欧由来のものだ。「格式の高いお茶屋」といったひとつのイメージに偏り過ぎず、「組み合わせ」によってさまざまな可能性を追求している。周りを見渡すと若い女性のお客さんが多く、皆さんリラックスしているようだった。

 

f:id:LOCA:20190907024434j:plain

 

そんなユニークな「組み合わせ」は、西荻窪の個性的な性格にも支えられているかもしれない。バンドマンから編集者、個人経営者まで、いろいろな人たちがSatén japanese teaを訪れる。藤岡氏自身も西荻窪出身だ。

 

「もともと中央線沿線は文化的で、喫茶店がたくさんあります。とくに西荻窪は嗜好品が好きな方々が多く集まる地域です」

 

藤岡さんが繊細な手つきで描く完璧なラテアートは、西荻窪の文化性を納得させるようだった。日本茶とコーヒーという独特な組み合わせによって、Satén japanese teaは西荻窪の人々から支持を得ている。

f:id:LOCA:20190907024404j:plain

 

「実は、LOCAセラミックフィルター、持ってますよ」藤岡氏は笑顔で話した。

 

考えてみると、LOCAセラミックフィルターも有田焼の誇るべき伝統とコーヒーの組み合わせ、多孔質セラミックの高い技術とコーヒーの組み合わせによって、人気を博している。前回のSPORTY COFFEEもスポーツとコーヒーの組み合わせだった。ゼロから悩む必要はない。何かと何かを組み合わせてみたら、新しいアイデアが生まれるんじゃないか。コーヒーを片手に記事を書きながら、卒業論文に向けて自信がついたような気がした。

 

saten.jp

Satén japanese tea
〒167-0054 東京都杉並区松庵3-25-9
TEL 03-6754-8866
営業時間 火水木土10:00-21:00 金10:00-23:00
定休日 月曜日

コーヒーをきっかけに、スポーツを楽しんでもらう。 SPORTY COFFEE 尾崎数磨さん

来年は、東京オリンピック

元号が令和に改まって、みなさんいかがお過ごしでしょうか。ゴールデンウィークも後半になって、天気がやっと良くなってきました。ひさしぶりに運動しようという方も多いのではないでしょうか。

さて、来年は東京オリンピックが開催されますが、みなさんは何か観てみたいスポーツはありますか。もしオリンピックならではのスポーツを観てみたいのであれば、フェンシングがおすすめです。私が大学でやっているフェンシングは、オリンピック種目のひとつで、太田雄貴さんの活躍で有名になりました。太田雄貴さんは、現在日本フェンシング協会の会長で、独自の経営でフェンシングというマイナースポーツを世の中に広めています。

toyokeizai.net

もっとスポーツを広めたい。そんな思いは、コーヒー業界にもあります。コーヒーをきっかけに、お客さんにスポーツを楽しんでもらう、そんな取り組みがあるんです。「大学生が、コーヒーを哲学する」第3弾となる今回は、駒沢オリンピック公園に近い、SPORTY COFFEEの尾崎数磨さんから「コーヒー×スポーツ」についてお話を伺いました。

f:id:LOCA:20190504004503j:plain

SPORTY COFFEE 店長の尾崎数磨さん。CoffeFest Latte Art World Championship 2016年大阪大会では、準優勝に輝いた。

フィッティングルームもあるんですよ。

SPORTY COFFEEに入ると、スポーツウェアやスポーツ用品がずらりと並んでいて、「ここはカフェなのか」と目を疑う。それも、デザインに凝った商品ばかりで、おしゃれな雰囲気を醸し出している。手前のキッチンにはコーヒーマシンがあり、奥を覗くと尾崎さんはお客さんと楽しそうにお話ししていた。

f:id:LOCA:20190504013339j:plain

スポーツウェアブランドAKTRのフラッグシップストアとして、昨年の12月にSPORTY COFFEE東京駒沢店はオープンした。2015年4月にオープンした大阪アメ村店につづき、2店舗目になる。

「フィッティングルームもあるんですよ」とAKTRのウェアを着た尾崎さんは語る。

「ここにきて、着替えて、荷物をおいてランニングにいくんです。それで戻ったら、コーヒーを飲まれてますね」そんなスポーティーなお客さんが、SPORTY COFFEEに訪れる。

コーヒーにはリラックス効果があり、運動前後にぴったりの飲みものだ。コーヒーとスポーツを掛け合わせて、「むかしはスポーツをやっていたけど、最近はやっていない。でも、またやってみたい」そんなお客さんのために、コーヒーを通してスポーツに出会うことがコンセプトになっている。

SPORTY COFFEEでは、カフェとしていろいろなコーヒーが用意されている。しかしそれだけではなく、ヨガやバスケットボール、フットサルやランニングといったイベントも開かれていて、お客さんは自由に参加できる。

駒沢オリンピック公園が近いこともあって、地域のみなさんに楽しんでもらっています」と尾崎さんは語る。

「スポーツを通して、いろいろな方に出会えるのが楽しいですね」

モデルさんや女優さんがイベントに参加することもあるのだという。お客さんがお弁当を持参して、SPORTY COFFEEのコーヒーと合わせてみたり、イベント自体もいろいろな形に発展していくのが面白いという。

 逆に、スポーツからコーヒーに出会うこともあります。

SPORTY COFFEEにはいろいろなこだわりがある。キッチンにはミルクケースが使われていたり、商品棚は学校の体育館を思わせるものであったり、遊び心が満載だ。こだわりのメニューを聞くと、「コーヒー×スポーツ」をかかげるだけあって、「プロテインラテ」だと尾崎さんは語る。本当にプロテインが入っていて、いちご風味でおいしく飲める独創的なラテだ。

f:id:LOCA:20190504011816j:plain

PROTEIN LATTE(https://sporty.coffee/help/about

「お店としてコーヒーだけでいいのか、というのはありましたね」と尾崎さんは語る。今となっては、おいしいコーヒーを出せるカフェはいくらでもある。その中で「コーヒー×スポーツ」という組み合わせだからこそ、コーヒーから入るお客さん、スポーツから入るお客さんの両方に来てもらえる。コーヒーとスポーツの相乗効果があるのだという。

「でも、片手間にコーヒーをやっているわけではありません」

尾崎さん自身は、ラテアートの世界大会に出場経験のあるバリスタだ。また、SPORTY COFFEEは、ドイツ・ベルリンに拠点を置くTHE BARNのコーヒー豆も扱っている。尾崎さんに淹れてもらった浅煎りのコーヒーからは、絶妙な酸味が感じられた。

thebarn.de

コーヒー、スポーツ、そしてカルチャーに

「コーヒー×スポーツ」という組み合わせは、特に外国人のお客さんから人気があると尾崎さんは語る。SPORTY COFFEEのように、コーヒーと何かを掛け合わせるカフェは海外にもあるのだという。たとえば、SPORTY COFFEEは「コーヒー×スニーカー」をコンセプトにしたアメリカ・ポートランドのカフェと交流がある。

だが尾崎さんは、SPORTY COFFEEを「コーヒー×スポーツ」の枠でとどめようとはしていない。お店の真ん中には、海外のデザイナーさんが携わった商品が並べられていて、「コーヒー×スポーツ」に新たに「カルチャー」を付け加えていく意気込みだ。

f:id:LOCA:20190504013102j:plain

 「SPORTY COFFEEには柔軟性があります。お客さんとの出会いの中で、どんどん新しいものを取り入れていきたいと思っています」

東京オリンピックを目前に控えて、スポーツが好きなみなさんにも、もちろんコーヒーが好きなみなさんにも、おすすめしたいカフェだ。それでは、また来月。

 

sporty.coffee

SPORTY COFFEE
〒152-0021 東京都目黒区東が丘 2-12-19 1F
TEL 03-6873-6519
営業時間 7:30-20:00

マンデリン、飲み比べてみて下さい。豆工房 COFFEE ROAST 調布深大寺店

どうすれば、コーヒーの奥深い世界をもっと知ってもらえるのか。

今回は、筆者が普段からお世話になっている、東京都調布市の豆工房 COFFEE ROAST 調布深大寺店の吉田成香さんにお話を伺った。

コーヒーの味は、豆の産地から品質、煎り方、挽き方、そしてフィルターによって、全く味が変わってしまう、奥深い世界である。本当に、奥が深い。ちょっと深煎りにしたり、浅煎りにしただけで、全く違うコーヒーになる。そして、奥が深いからこそ、コーヒーの楽しみ方は人それぞれである。

f:id:LOCA:20190403145729j:plain

豆工房 COFFEE ROAST 調布深大寺

忙しい朝、新聞を片手にコーヒーバッグのコーヒーを飲む人。お仕事前の眠気覚ましに、自動販売機の缶コーヒーを飲む人。はたまた、豆を買ったり、挽いたりして、ドリップコーヒーを楽しむ人。どれが正しいということは無いはずだ。

しかし、インターンとしてLOCAセラミックフィルターのお手伝いをする中で気付いたのは、ビジネスという文脈においては、単純に美味しいコーヒーを目指すというだけでは足りないということだ。豆の産地から品質、煎り方、挽き方、そしてフィルターまでこだわり、同業他社と一線を画す価値があったとしても、その価値を一般のお客さんに伝える努力が必要だということだ。

例えば、LOCAセラミックフィルターでは、小売店で試飲会を開催して、LOCAセラミックフィルターで淹れたコーヒーをお客さんに直接飲んでもらっている。差別化を図るのも難しいが、その価値を伝えるのも難しい。

筆者が吉田さんのお店に通うのは、吉田さんがコーヒーの奥深い世界について懇切丁寧に教えて下さるからだ。それによって筆者は、今まで知り得なかった豆に出会うようになった。

例えば、スタンプカードの裏に購入した豆をメモして下さり、今までどんな豆を試したのか分かるようになった。豆の焙煎を待っている間は、サービスコーヒーを淹れて、その産地についてお話しをされる。そして、淹れ方が分からないときは、コーヒー器具一式を持って、お湯の温度からドリッパーの穴の数まで、詳しく教えて下さる。

吉田さんの取り組みには、コーヒーの奥深い世界を伝える努力をひしひしと感じられる。

もともとはスターバックスに勤めていた。

吉田さんは、もともとスターバックスに勤めていたそうだ。それも、10年以上も勤続していたという。取材時には、当時バイトだった方が、たまたま吉田さんに挨拶に来ていた。

「ということは、このお店を始めたのは、焙煎や産地にこだわった、より本格的なコーヒーを。ということですか。」

吉田さんは、はにかんだ笑顔で、「うちみたいなお店とスタバって、根本的に違う気がしますね。スタバは、お客さんに空間や時間を楽しんでもらえるカフェだと思います。私自身、今でもよくスタバに行きますよ」と語った。

それでも、スタバ時代に学んだマーケティングは、今にも活きていると語る。

COFFEE ROAST 調布深大寺店は、3月号のCOFFEE ROAST SAIさんと同様に、(株)コーヒーローストの加盟店のため、商品説明のカードやタグ、その他の備品についても貸し出されるという。

「使っても、使わなくてもいいんですよね。」そのように語る吉田さんは、独自のマーケティングを決して怠らない。

淹れ立てのサービスコーヒーとそれにぴったりのお菓子を提供したり、高級豆や旬の豆について写真付きのカードで紹介している。そして何より、「飲み比べ」は、豆の奥深さを体験してもらえる画期的な取り組みだ。

マンデリン、飲み比べてみて下さい。

マンデリンは、その深煎りの苦みで知られている、インドネシアを代表する豆だ。どのコーヒーショップでも、マンデリンは定番の豆である。

しかし、マンデリンだけを取っても、その世界は奥深い。吉田さんは、「マンデリンG1」と「ゴールデンマンデリン」を用意して、その飲み比べをおすすめしている。

マンデリンG1の「G」はグレードの意味で、その品質を表している。マンデリンG1は、最高品質のコーヒーで、「やや強めの苦みと熟した果実の甘み」が特徴だ。マンデリンG1よりも低いグレードのマンデリンは、例えばカフェラテに使われている。

では、ゴールデンマンデリンとは何か。こちらは、スマトラ島の一定の基準を満たした限定小規模農家によって、手作業で摘み取られた豆だ。吉田さんの説明によると、「濃厚かつ雑味のないふくよかなコクを感じます」とのことだ。例えば、栽培地の高度が一定に保たれているため、気候条件の変化による味のばらつきが少なく、また豆の大きさも揃っている。一言で言えば、マンデリンG1よりも品質管理が徹底しているのだ。

f:id:LOCA:20190403145304j:plain

マンデリンG1

f:id:LOCA:20190403145202j:plain

ゴールデンマンデリン

吉田さんは、「マンデリン 飲み比べ」と分かりやすくまとめたカードを用意して、お客さんに二種類のマンデリンの違いを知ってもらった上で、飲み比べができるようにしている。

実際に飲んでみると、マンデリンG1とゴールデンマンデリンの違いは歴然だ。前者は「スモーキー」と言いたくなるほど、深煎りらしい苦味があるのに対して、後者には透明感があり、万人受けするような、とても飲みやい印象だった。気が付けば、朝の一杯には、「スモーキー」なマンデリンG1を選び、友達が家に遊びに来たら、ゴールデンマンデリンで淹れたいと勝手に想像を膨らませていた。飲み比べによって、マンデリンのことが好きになった気がする。奥深い世界だからこそ、飲み比べのようなちょっとしたきっかけで、楽しさは倍増する。

それだけではない。吉田さんは、それぞれの豆にぴったりのお菓子まで紹介する。お店にも様々な種類のお菓子が置いてある。例えば、酸味が強い、浅煎りのコーヒーには、柑橘系のお菓子を。マンデリンのような苦味の強いコーヒーには、シナモンフレーバーのクッキーやスパイシーなおつまみも合うのだと語る。

f:id:LOCA:20190403145847j:plain

店内には、様々なお菓子が用意されている。

調布の皆さんにコーヒーを楽しんでもらえるように。

 「もし、あの商品カードが変わったら、『お、何かやりだしたぞ』と思って下さいね。(笑)」

吉田さんの朗らかな性格は、店内を明るくしているようだった。

「とはいうものの、コーヒー党の方だけではなく、地域の皆さんにコーヒーを楽しんでもらいたいですね。」

京王線布田駅から徒歩10分ほどの住宅街にお店を構えるのは、地域の皆さんにコーヒーを楽しんでもらいたいからだと語る。最近には、近所を流れる野川の夜桜ライトアップをイメージして、「夜桜ブレンド」を発売した。

「お客さんにとっては、もちろんお口に合うのが一番です。でも、例えばマンデリンに対して苦いという印象をお持ちなら、煎り方によって飲みやすくなるかもしれません。焙煎度合を揃えることによって、産地の異なる豆の違いを楽しむことが出来るかもしれません。そういったことを試せるのが、うちの良いところだと思います。」

そんな吉田さんのお気に入りは、エメラルドマウンテンだという。「お気に入りというよりも、色々な豆を試してきて、エメラルドマウンテンの味が一番安定していますね」と笑顔で語った。

 

豆工房 COFFEE ROAST 調布深大寺

182-0015 東京都調布市八雲台1-27-6

042-444-5180

営業時間:10:00-18:00

定休日:月曜日