大学生が、コーヒーを哲学する。

LOCAセラミックフィルターでインターンしている大学生が、都内のコーヒーショップを巡り、コーヒーの魅力を発信します。

日本のコーヒー文化の原点にタイムスリップ 名曲喫茶ライオン

10月に入って少し涼しくなってきましたが、みなさんいかがお過ごしでしょうか。夏休みが終わって、秋学期が始まった私は、毎朝コーヒーなしではやっていけない、という思いです。

今回は渋谷駅から徒歩10分、道玄坂をのぼったところにある、名曲喫茶ライオンさんにお邪魔しました。

 

今までこのブログでは、美味しいコーヒーとは何か、コーヒーショップのこだわりとは何か、ということを都内のバリスタさんに訊いて回りました。今回は雰囲気をガラッと変えて、喫茶店の歴史、コーヒーの歴史に目を向けてみたいと思います。

 

というのも、この名曲喫茶ライオンさんは昭和元年に開業して、途中戦争の影響を受けながらも、当時のコーヒーの味や西欧的な外装・内装を守り続けてきました。初代店長の山寺弥之助氏の孫である山寺直弥氏にお話を伺いました。

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店内は薄暗くなっていて、リラックスできるようになっている。座席はほとんど全て、奥のレコードの方を向いている。

 
「いや、特に『コンセプト』なんて無いですよ。昔からあるものを何とか続けてきただけです。戦争で休業を余儀なく迫られたこともありました」と気さくに話すのは、山寺さん。

 

先々代はもともと福島県会津若松の酒造の家で生まれ育ったが、東京で商いをしたくて、東横線の今はなき駅の近くにかき氷屋さんを始めた。それがうまく行ったのをきっかけに、当時ヨーロッパで流行り出したコーヒーに目をつけ、「ライオン」を始めたのだという。もちろん、日本では誰もコーヒーなんて飲んでいなかった。

 

「喫茶店業というのが存在しなかったんです。なので、パン屋さんとしてお店を始めました」

 

先々代は身内をヨーロッパに行かせて、コーヒーや喫茶店について学んだのだという。さらに、東大の学生がよく来ていたこともあって、文化色の強い喫茶店になった。店内の照明は落ち着いていて、クラシック音楽が流れ続けている。今では何千もの所蔵があり、お客さんからのリクエストも受け付けている。

 

「もともと歌謡を流していたそうですが、先々代が気に入って、クラシックを流し始めました」

 

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内装・外装だけではなく、座席やテーブルまで歴史を感じさせるものになっている。そして、コーヒーにいたっては、今では珍しいネルドリップ(紙ではなく、布で抽出すること)でコーヒーを淹れている。ホームページには、「ライオンのコーヒーの味は、ロンドンにあるベーカリー直伝である」と書かれているが、本当に重厚感があるコーヒーだった。調合方法もドリップ方式も当時のままで続けているのだという。

www.ucc.co.jp

 

なぜ今回、名曲喫茶ライオンを取り上げたのか。それは、コーヒーのサードウェーブであるスペシャリティーコーヒーの文化が日本の喫茶店文化に由来しているところがあるからだ。ファーストウェーブは大量生産と大量消費の時代で、セカンドウェーブはスターバックスを始めとするブランドコーヒーの時代と言われているが、本当にそうなのだろうか。名曲喫茶ライオンが開業したのは、コーヒーのファーストウェーブと言われる頃だが、お店の雰囲気づくりやコーヒーに対するこだわりは、大量生産と大量消費というよりも、現代のコーヒーショップに通じるところがある。

www.georgia.jp

 

日本においてまだコーヒーが目新しい頃から見られた、喫茶店のオーナーのドリップ文化は、その後、スターバックスの時代を迎えても脈々と生き続けている。新しい潮流に影響されることなく、自分のスタイルを貫く。それが、名曲喫茶ライオンが今日も続いている理由かもしれない。

 

さて、名曲喫茶ライオンは戦争でお店が焼失し、休業を余儀なくされた。その後、奥多摩から木材を仕入れたり、闇市で砂糖を手に入れたりした頃もあったのだという。今日、渋谷にあるお店は終戦後からあるもので、建物もだいぶ古くなっている。それでも、多くのお客さんに愛されている。

 

「長く続けていく秘訣なんてないですよ。このお店もいつまで続けるかとかは全く考えていませんが、できる限り、このお店の雰囲気とコーヒーの味を保ちながら続けていきたいです」

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名曲喫茶ライオン
http://lion.main.jp/info/infomation.htm
〒150-0043 東京都渋谷区道玄坂2-19-13
TEL 03-3461-6858
営業時間 11:00-22:30
年中無休(正月・盆休み有り)